敷金のミニ知識 vol.9 東海林智恵

~お引越の多いこの季節、敷金のミニ知識をお教えします。~

早いもので、本日から3月ですね。
5日は、冬ごもりの虫たちが動き出すとされる「啓蟄」ですが、
春の到来を感じさせる柔らかな日差しに心浮き立つという方々も多いことでしょう。

さて、3月は入学や転勤に伴うお引っ越しが多い季節でもあります。
弁護士をしていると、この時期に賃貸借契約に関するご相談を
お受けすることがよくあります。
本日はその中でも、特に多いご相談の一つである
「敷金」の基本的な考え方について、皆様にお伝えしたいと思います。

始めに、「敷金」とは、賃貸人の賃料債権等を
担保するために賃借人から賃貸人に支払われる金銭です。
契約終了時に、賃借人に賃料不払等があれば、
賃貸人がその分を控除して賃借人に払い戻すという性質のものです。
いわば、担保ですね。

控除されるものとしては、未払い賃料が代表格です。
ただ、実際に揉めるケースの大半は、「原状回復」を巡る費用です。
簡単に言うと、大家側さんから、
「原状回復費用(=元の状態に戻すためにかかる費用)は、
敷金から引かせてもらいますよ。」というもの。

しかし、「原状回復」=「入居した当初の状態」であるとすれば、それは間違いです。
この点を誤解され、言われるがままに敷金からの控除を了承し、
結果、敷金が殆ど戻らなかった、
場合によっては足が出てしまったというご相談も珍しくありません。

当たり前のことですが、普通に生活をして物件を使っていれば、当然、劣化します。
法律的にはこれを、「通常損耗」と呼びますが、
この「通常損耗」と認定されるものに関しては、支払う必要はありません。
これは、国交省のガイドラインの基本的な考えでもあります。

通所損耗の例としては、
「壁のクロスに画鋲を刺し、カレンダーをかけた。」
「畳表が、経年劣化で黄ばんできた。」
「テレビと冷蔵庫の後面の壁が電気ヤケで黒ずんだ。」
「ドアや蛇口の部品が破損した。」といったものがあげられます。

逆に、
「うっかりして、明らかに張替が必要なほどの傷をクロスに付けてしまった。」
「飲み物をこぼしたままにして、畳にシミ跡ができた。」
等の事情があれば、これは通常の使用方法とは言えないので、
敷金からその修理費用を控除することもやむを得ないとなります。

つまり、賃借人としては、賃借人として社会通念上
要求される程度の注意(「善管注意義務と言います。)
をはらって物件を使用することが大切です。

なお、契約書により特約を別途定め、こういった通常損耗の他、
通常かかると予想されるハウスクリーニング代等を賃借人負担とする
契約もありますが、その特約が有効となるか否かは、ケースバイケースです。
ですので、特約があるからといって諦めないでいただきたいと思います。

最後に、契約全般につき言えることでありますが、
後々トラブルにならぬよう、契約時にはしっかり契約書を読み、
また、契約物件を内覧のうえ傷や破損の有無等を確認し、
撮影日時がわかる写真を保存しておくことも有効です。

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